市民の皆様へ

【ライフステージごとの歯科の特徴と注意点】

〜いつまでも自分の歯で美味しく食べ続けるには〜

妊娠期 | 乳幼児期 | 学齢期 | 今からでも始めよう口腔ケア | 高齢者の口腔機能について:オーラルフレイル | 認知症と歯科

【妊娠期】

大切なお口の健康を守るにはむし歯予防に加え、歯周病予防が大きなテーマになります。

歯周病は、原因となる歯周病菌のコントロールである歯ブラシ(プラークコントロール)が最も重要ですが、歯周病を発症、進行させる要因は、体調、生活習慣などが関係します。

成人女性にとって重要な要素の一つに、妊娠期、更年期など作用する性ホルモンが関与し、炎症症状が現れやすく、細菌に抵抗しお口を自浄している唾液分泌に変化がみられます。

妊娠前にお口の環境を整え、良好なプラークコントロールができていないと、この時期の食生活の乱れや、生活環境の変化により歯周病の進行させる要因になります。また重度な歯周病では、血液中の炎症産物により子宮収縮に影響し、低体重児出産の原因にもなります。

18歳から20歳の成人を迎え、社会生活に入り、結婚、妊娠に備え早期にお口の環境を整えましょう。是非かかりつけ歯科医を持ち定期的な予防受診をしましょう。

  • 妊娠前にむし歯、歯周病を治療しお口の環境を整えましょう
  • かかりつけ歯科医を持ち定期健診を受けましょう
  • 規則的な食生活、社会生活を心掛けましょう

プレママのデンタルケア|日本小児歯科学会

親子で守ろう お口の健康! 妊婦歯科健診を受けましょう!

【乳幼児期】

赤ちゃんの初めてのお口のケアは、まずはスキンシップ。お口の中は過敏なので、触る前にお顔やお口の周りから“触れる”感覚を育てましょう。

【乳幼児期の口腔機能の発達とむし歯予防】

小児にとってお口の機能(口の働き)は、日々の生活においても、また心身の成長や発達の面でも重要です。歯や口を使って美味しく食べて、楽しく話し、泣いたり笑ったり感情表現することは、小児の心と身体の健全な成長を促します。「食べる」ことは、栄養摂取による身体の成長や生命の維持だけでなく、一緒に食事する場でのおいしさとコミュニケーションにより精神的な心の発達を促すものでもあります。そのために健康な歯と口を守り、健全な口腔機能の発達と獲得が大事になります。それにより生涯のお口の健康維持にもつながる大切な時期とも言えます。

乳幼児期の口腔機能の発達について、現在八南歯科医師会HP上で動画配信中です。

  • 成長に従い歯みがきの自立と仕上げ磨きを習慣づけましょう
  • 正しい姿勢を心がけ、咬む機能を育てる食事をしましょう
  • 食物そのものの味を大切にした味覚を育て、家族での食事の場を作りましょう
  • 間食、甘味飲食には時間に注意し、習慣づけないようにしましょう

子どもたちの口と歯の質問箱|日本小児歯科学会

HA・HA・HAパーク |(株)LION「クリニカKid’s歯ブラシ」

【学齢期】

【学齢期の歯科的特徴】

成長発育の著しい時期であり、体の発育と同様、歯・口腔の状態は個人差があります。

[小学生]

乳歯から永久歯への生え替わる時期で、歯の周りに汚れが残りやすく、永久歯も未成熟(幼若永久歯)なため、むし歯発生の危険性が高く注意が必要です。

特に第一大臼歯(6歳臼歯)は、かみ合わせを構成するための重要な役割を有していますが、自分では十分歯磨きができない時期に生えてくる上、かみ合わせ部分が複雑で汚れがたまりやすくむし歯にはとても注意が必要です。

本人のみの歯磨きでは不十分なことから、保護者による仕上げ磨きや定期的な歯科受診も大切です。

体の成長に伴い、顎も成長するため歯並びや上下顎の関係も変化していきます。

[中学生・高校生]

歯の生え替わりが完了し、体の成長と併せて歯並び、かみ合わせが完成します。

第二大臼歯や隣接面(歯と歯の間)にむし歯が発生しやすくなります。歯と歯の間の清掃には歯ブラシ以外のデンタルフロス(糸ようじ)など補助的清掃用器具も併用することが効果的です。

生活環境の変化や第二次性徴の影響で歯肉に炎症が生じやすくなります。

第三大臼歯(親知らず)が生えてくる場合もあります。歯磨きが難しいことが多く、歯肉が腫れたりむし歯になりやすいため注意が必要です。

自分で歯磨きなど歯・口腔の健康管理を行うようになりますが、正しい知識に基づいた口腔ケアの取組を行うためには保護者や学校、地域の協力が不可欠です。

[小・中・高共通]

生活習慣の変化や嗜好品の影響で、むし歯のリスクが高まります。

運動や活動範囲の拡大に伴い、授業や部活動等の学校管理下においても怪我等で歯の破折や、脱臼、脱落等の口腔外傷が生じやすくなります。

子どもたちの口と歯の質問箱(日本小児歯科学会) 小学校低学年
子どもたちの口と歯の質問箱(日本小児歯科学会) 小学校高学年
子どもたちの口と歯の質問箱(日本小児歯科学会) 中学生高校生

学校健診について(日本学校歯科医会)

学校健診で医療機関への受診勧告がされましたら、必ず歯科医院に行きましょう!
人生100年時代、永久歯は生え変わりません!

参考にしてください

むし歯 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020(日本歯科医師会)

外傷(東京都学校歯科医会)

歯ぎしり(ライオン)

よい生活習慣が健康な歯や口をつくるよ!!(東京都歯科医師会、東京都学校歯科医会)

【成人期】

成人期から「歯周病」が急激に増加します。

成人期、とくに30歳以上で、「歯周病」が急激に増加しますが、多忙で生活が不規則となる時期であり、口腔ケアは後回しになりがちです。正しい口腔ケアとともに、定期的に「かかりつけ歯科医」で歯科健診を受け、今から予防をこころがけましょう。

「歯周病とは」

ひと言でいうと、歯を支える歯ぐき(歯肉)や骨(歯槽骨)が壊されていく病気です。歯ぐき(歯肉)の内側は普段見ることは出来ませんが、歯の根の表面にあるセメント質と歯槽骨との間に歯根膜という線維が繋がっていて、歯が骨から抜け落ちないようにしっかりと支えています。むし歯は歯そのものが壊されていく病気ですが、歯周病はこれらの組織が壊され、最後には歯が抜け落ちてしまう病気です。日本人の40歳以上の約8割がこの病気に罹っています。日々の生活習慣がこの病気になる危険性を高めることから、生活習慣病のひとつに数えられています。

特に、歯みがきを怠る口の中の清掃不良に加え喫煙などの生活習慣、過度のストレス、体調不良による宿主(体)の抵抗力の低下などが加わるととても危険です。

規則正しい生活習慣は、歯周病を寄せ付けないためにも大切な事です。また、生まれつき歯周病にかかりやすい方もいますので、自分の体についての情報を知る事も大切です。

「歯周病」の進行、予防法、治療法など、詳しく知りたい方は下記URLをどうぞ。

日本歯科医師会 歯周病 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020

現在、各自治体では「歯周病検診」などの検診事業を実施しております。ご希望される方は下記URLをご確認ください。

八王子市 肝炎・歯周病検診|八王子市公式ホームページ
日野市  お口の健康診査|日野市公式ホームページ
多摩市  令和3年度 歯周病検診 | 多摩市役所
稲城市  令和3年度 歯周疾患検診 稲城市ホームページ

【今からでも始めよう口腔ケア】

口腔ケアとは

口腔の疾病予防、健康維持・増進、リハビリテーションによりQOLの向上を目指した科学であり、技術です。

具体的には、検診、口腔清掃、義歯の着脱と手入れ、咀嚼・摂食・えん下のリハビリ、歯肉・頬部のマッサージ、食事の介護、口臭の除去、口腔乾燥予防などがあります。

口腔ケアの目的

口は主に、「食べること」「話すこと」「呼吸すること」「表情をつくること」という4つの機能があります。しかし、加齢による衰えや病気によって、これらの機能が低下してしまうことは少なくありません。

できるだけ機能を良好に維持していくためには、口腔ケアが重要です。

口腔ケアの効果

  1. 唾液の分泌を促進する
  2. 感染症や発熱を予防する
  3. 認知症を予防する
  4. 口腔機能の低下を防ぐ

口腔ケアのポイント

  1. できることは自力でやってもらう
  2. 短時間で終わらせる
  3. 姿勢に気を付ける
  4. 口腔内の様子をチェックする

口腔ケアの方法

口腔ケアの方法は以下を参照ください。

口腔ケアの方法

オーラルフレイル対策のための口腔体操|オーラルフレイル|日本歯科医師会

【高齢者の口腔機能について:オーラルフレイル】

≪食べるということの意味≫

私たちにとって、食べるという行為は生きていくために必要不可欠なものです。乳幼児期を経て、食べ物を口に運び、よく噛んで(咀嚼)安全に飲み込む(えん下)という能力を獲得した後、多くの人は毎日当たり前のように、口の機能を使ってこの咀嚼とえん下を繰り返しご飯を食べています。

また、食べることは、その人の社会性とも密接に関係しています。家族と食卓を囲んだ普段の食事だけでなく、お祝いの時に集まって会食したり、一人で好きなものを食べ歩いたりと、誰といつ何を食べるか?ということは、ただ生命維持に必要な栄養を取るためだけではなく、私たちが社会生活を送る上でとても重要な意味を持っています。

≪フレイルとオーラルフレイル≫

私たちは今、世界の中でも長生きの国に暮らしています。2016年の調査では日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳(厚生労働省「簡易生命表」)で2010年と比べても男性で1.72年、女性で1.17年と延伸し続けています。

しかし年齢を重ねるにつれ、私たちの身体や生活環境は当然変化していきます。もちろんその変化の全てが受け入れ難いものというわけではありません。

しかし今まで当たり前だと思っていた日常生活が難しくなってくるタイミングは、必ずしも平均寿命の値と一致するわけではない、ということは意外と知られていません。

いわゆる健康寿命(日常生活に制限がない期間)は2016年の調査で男性72.14歳、女性74.79歳(第11回健康日本21(第二次専門委員会資料)となっています。

平均寿命まで、それぞれ男性で約8年、女性約12年、日常自分でできていたことが難しくなる期間が存在しているということになります。

これまで、平均寿命と健康寿命のギャップの原因について、がんや脳卒中などの病気が大きな原因の一つと考えられてきました。

しかし近年、体力・筋力の低下、判断力・認知機能の低下が、日常生活におけるその人の活動性の低下につながり、さらに社会参加への意欲や食欲低下を引き起こす悪循環を引き起こしていることがわかってきました。

2014年に日本老年学会が、虚弱を意味する英語の(frailty)を、日本語でフレイルと訳し、以下の声明を発表しています。

フレイルとは(①)

高齢期に生理的予備能力が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態である。身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念である。

Frailty の日本語訳についてこれまで「虚弱」が使われているが、「老衰」、「衰弱」、「脆弱」 といった日本語訳も使われることがあり、“加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態”といっ た印象を与えてきた。しかしながら、Frailty には、しかるべき介入により再び健常な状態に 戻るという可逆性が包含されている。

荒井 秀典:フレイルに関する老年医学会からのステートメントより抜粋)

つまり、ご自分や周囲の人が、フレイルのきっかけとなる体力・筋力の低下、判断力・認知機能の低下に気がつき、適切な対応や介入を行うことにより悪循環を断ち切り、健康寿命を延伸できる可能性が示されたのです。

オーラルフレイルとは(②)

このフレイルの概念を、口からごはんを食べるという私たちが普段何気なく行っている行為に当てはめて考えてみましょう。

歯がぐらぐらして今まで食べられていた硬さのものが食べにくくなったり、入れ歯が合わなくて痛かったりで飯が食べにくくなった人は、外食をしたりするのが億劫になったりするかもしれません。一人で、食べやすい柔らかいものばかりを食べていて、栄養が不足したり筋力が低下し(③サルコペニア)さらに活動性が落ちることも考えられます。(フレイル)

これらのことが進んでいくと私たちにとってとても大切な、誰と、いつ、何を食べるか?を自分で選択することが難しくなったり、自分の意思で食べ物を口に運び、よく噛んで、安全に飲み込むという当たり前だと思っていた機能が上手く働かなくなったりすることも考えられます。

このように口腔機能の軽微な低下や食の偏りなどはオーラルフレイルと称され、フレイルの概念に含まれています。

オーラルフレイルも、先述したフレイルの概念にある適切な対応や介入により、健康な状態に戻る可能性があります。

オーラルフレイルを改善するためにご自分でもできることもたくさんありますが#④、まずはかかりつけの歯科医院で、些細でも気になる症状を相談してみることをお勧めします。

現在八南歯科医師会に属する八王子市、日野市、多摩市、稲城市の各歯科医会は行政と協力し、オーラルフレイル対策も含め、高齢の方への口腔機能健診を実施できるように取り組みを進めています)

フレイルとは | 健康長寿ネット
オーラルフレイルについて|オーラルフレイル|啓発活動|日本歯科医師会
サルコペニアとは | 健康長寿ネット

「お口の健康」からはじめるフレイル予防|東京都介護予防・フレイル予防ポータル

【認知症と歯科】

超高齢化社会に突入した日本では、認知症患者さんの増加が問題になっています。特に80歳以上の高齢の方に発症する割合が増えていきます。

認知症が進んでいくと、新たなことを学習するのは困難となりお口の中への関心が薄れ、また歯みがきなどの口腔ケアが難しくなることで一気にお口の中の状態が劣悪になってしまい健常者より虫歯や歯周病が多くなります。その場合には口腔衛生状態の管理のため周囲のサポートが必要になります。

また入れ歯の取り扱いも困難となりお口の中の環境をより悪化させ、入れ歯の誤飲誤嚥などの危険性も高まります。やがては入れ歯の使用そのものが困難になります。

しかし認知症高齢者でも入れ歯を装着していることが栄養に影響を及ぼし低栄養状態になるのを防ぐ効果も報告されています。

認知症の方は周囲の環境の変化に適応して行動することが困難になってくるため、自宅とは異なる歯科診療所などでの治療や口腔ケアの受け入れが困難になってきて場合によっては強い拒否を示すこともあります。一方で記憶障害のある認知症の方でも慣れや馴染みという感覚は残存していることが多く歯科治療や口腔ケアを続けることで受け入れられることもよくあります。できるだけ軽度のうちから定期的に歯科的な介入を継続することは重要であります。

80歳で20本以上の歯を有する方の割合が50%を超えた今、一生涯ご自分の歯で美味しくなんでも食べられるようにと頑張ってこられた方が、認知症になってしまった場合不幸な口腔状態に陥らないようにするためには、何をすべきでしょうか?

そのヒントは、日本歯科大学 菊谷武教授 が書かれた【認知症と歯科―認知症の前にすること、認知症になったらすること―】の中にあります。是非、ご一読ください。

認知症と歯科 ハンドブック(PDF : 1.65 MB)

2021.05.29 作成

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